Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    閑話 〜冬の朝、お目覚めの。
 



 どこか遠くで声がする。犬の吠える声みたいだが、キングかなぁ。まだ明るくなって間もなかろうに、こんな朝っぱらから起き出すなんて珍しい。新聞配達の兄ちゃんにでも、吠えかかってやがるのかな? でも・ま、今朝はそんなに寒くなさそうだな。…温ったけぇ〜。ああ、なんだ。布団の中だけ温ったかいんだ。鼻は冷てぇもんな。………何かいるなぁ。えっとぉ、確か昨夜は兄貴んトコのチームの残念会が遅くまであって。家に戻ってからも、何か遅くまで賑やかだったんだけど、こっちは妙に眠くて眠くて。そうそう、口実見つけて下がらせてもらって。そいでそのまま、ブウブウ言いやがんのを宥めすかしながら、一緒にもつれ込むみたいに布団へもぐり込んで…寝たんだっけが………あれ? じゃあ、この温ったけぇのって、あいつかよ。やっべぇ〜、家へ連絡させたっけかなぁ。お袋さん、心配なさってないかなぁ。それに、今日は平日じゃんよ。まだ今週中はガッコもあんだろに、ここじゃあ支度とか出来ねぇじゃねぇか。

  「………お〜い。」

 ここまでのあれやこれやが頭の中を1周すりゃあ、いくらなんでも意識も覚醒に向けて冴えて来るというもので。高校アメフトがクリスマスボウル直前なのなら、大学アメフトの方でも、関東1位を決めるクラッシュボウルを終えて、いよいよの東西対決、甲子園でのライスボウルを待つばかりという頃合いで。社会人リーグだって終盤戦だ、見ごたえのあるゲームの目白押しなもんだからと。受験生なのにも関わらず、どれもこれもと観戦に運ぶ葉柱のお兄さんに、必ずと言っていいほど洩れなくくっついて回ってた金髪のおチビさんを、しまった無断外泊させちまったと。そんな事実が一番効いてのお目覚めを迎えた、カメレオンズの元総長殿。
「…。」
 まだ少々眠気が勝っているところだが、何とか強引に瞼を上げて。視野の中へと飛び込んで来たのは、見慣れた自室の朝の情景。その明るさへと大欠伸を洩らしつつも、さあさ、こいつを叩き起こさにゃと。懐ろの中のお客様へと意識を向ける。お泊まりすること自体には、もはやさしたる問題もない間柄。遊びに来ていて少しでも遅くなったれば、親戚のお家レベルで“じゃあ泊まってきなさい”という流れになるのがもはや当たり前な呼吸と化してる小学生の小さな坊や。されど実は…親類縁者などという関わりなんて一切ない、一番親しい家人である末の息子さんとでさえ、8つも年が離れたお子さんだっていうから、穿ってるというか奇妙な縁だというものか。というか、そうまでの年の差がありながら、こうまでの間柄になっている末っ子さんこそが、微妙に離れ難いとし、大事に大切にと構いつけて来たその延長で、こうまで培われた間柄であったりするので、
「お〜い、起きないか。妖一〜。」
 こちらの懐ろ深くへお顔を埋めて、なかなか剥がれない小さな温み。見下ろせば、慣れない者だとギョッとするかも知れないだろう、飴色がかった金髪頭がまずは目に入る。お〜いという声掛けへ、最初はびくともしなかったが、何度か繰り返すと、
「………〜〜〜。」
 う〜んとも む〜んとも聞こえる、何とも曖昧な声での“お返事”がやっと返って来たが、
“何か、どんどんと朝に弱くなってねぇか、こいつ。”
 夜更かしさしたのが不味かったかな。まだまだ起きてられるも〜んなんて言い張って、さんざ愚図ってやがったが、次の日がこれじゃあ意味ねぇっての、と。昨夜、寝かしつけるのにどんだけ手を焼かされたかを思い返す葉柱だったが。子供相手に呆れて出る文句というよりも、対等な相手への不平にしか聞こえないのが不思議なもの。やれやれと言いつつも、手触りのいい細い質の髪を長い指にて梳いてやってる、そのお顔が妙に優しくて。しょうがねぇなぁ、まったくよと閉口しつつも、俺がついてないとこれだもんよな、なんてな、惚気半分の文言にも聞こえてしまうせいだろう。子供相手に、やれ手がかかる奴だと思って言うなら、こうまでの蕩けようにはならないはずで。…これってやっぱり、ある意味で既に尻に敷かれかけているという立派な予兆なのではなかろうか? どう思われますか? 人生相談の先生様。(東京都D市 ニット帽が似合うK・I 高二男子)
こらこら 久々に大きく脱線までしての冗談はともかく。(まったくです・笑) こんなに“頭もしゃもしゃ攻撃”を仕掛けてもなかなか起きない坊やなのへと、しょうがない奴だなぁと甘く苦笑をし。だからそこが子供相手の対応じゃないというにとの、抗議が殺到しそうなほどに緩んだお顔をしていた総長さんが、

  「………ん?」

 ふと。何かしらの違和感を覚えて、思考と動きを止める。ひょいっと、壁掛けの時計に目をやった一瞥の中に…何だろうか、今のは。何にか感じた物凄い違和感があったような気がするのだが。見過ごさなかった注意力は大したもので、だったら再びのひょいと、確かめれば良いことな筈が、何でだか妙に…警戒信号のようなものをも同時に感じてる葉柱で。例えば、確かめたらそれは怖い怖いお化けか何かで、目の錯覚だったと確かめないでスルーしときゃあ、後難もなかったものをというよなドラマに発展したりして…。
“なんて種類のドキドキは、あいにくと俺、感じねぇ方だしな。”
 合宿やら遠征やらで、曰くのあるホテルに泊まって…何か居るぞとギャーギャー言いやがんのは、このチビかメグくらいのもんで。少なくともウチの家族には、そんな霊感とかいうものが強いのはいない。強くなきゃ寄っては来ないかというと…そんなこともないらしいが、見えないものは怖くないし怖がりようがないからと、とりあえずご本人には支障はなくて。

  “じゃあ一体何だったんだろ。”

 第一、何で俺 引いてんの? 此処って間違いなく俺の部屋だってのによ。葉柱議員に恨みのある奴とか、それとも金目当ての誰ぞが忍び込んでるってか? そういうのは、高階さんとかがきっちりチェックしてる家だしな。キングもあれで結構勇敢だし、敏感だから、不穏な気配へは黙ってない。でも、さっきまでは確かに吠えてたものが、今はもう静かになってるしなぁ。
「………。」
 考えてても始まらない。何だか警戒警報はなり続けてるような気もするけれど、気になる違和感を放置しとく訳にもいかないし、何より、いつまでも寝腐ってもいられない。とっとと起きて、坊やをガッコか実家へ送って行かねばならない身。ままよと視線をもう一度、壁掛け時計へと上げかけて………。

  “〜〜〜〜っっ!! ちょ、ちょっと待て待て、何じゃこりゃあっ!!”

 葉柱が視線を投げた壁というのは、ちょうど自分の足元に当たる方向にあり。軽く頭を浮かせたその拍子、目当ての時計だけでなく、実に様々な情報が飛び込んで来る訳で。バイクとアメフトが趣味という身なので、部屋にはあまりごちゃごちゃとは物を置いてない。代わり映えのしない風景の中、違和感があって引っ掛かったものがあったというのなら、結構判りやすい筈であり、それに気づけた今、葉柱は脳が活性化されるアハ体験をしたことにな(略)じゃなくて。
「………。」
 朝晩の冷え込みもなかなかに冬めいて来た今日このごろではあるが、寝具の方はまださして重装備になってはおらず、毛布と合掛け布団だけの身。よって、布団の下になってるもののシルエットも、今の段階ならば、まだ結構判りやすく浮き上がる…のだが。自分の胸から下、腰に脚に爪先までという長い畝が立っているのは判る。問題はその横で、
“…何でもう一人分の膨らみがあんだよ。”
 自分に寄り添うように伸びたもう1つの膨らみが、しかも…さして身長差はないぞという爪先までの長さを、つまりは背丈を持つ誰かがいるからこその存在あっての膨らみが、視野に入って…身が凍る。
“…ちょ、ちょっと待て。いやさ落ち着け。”
 じゃあ…この金髪頭は、懐ろに収まってる温もりは、いつものあの坊主じゃあないってのか? 全然まったく骨っぽくないんですけど。肩だって小さいし、細いしで。まさか、もしやして…女子の人とか? え?え?えっ!? でもなんでっ!? 
“昨夜の集まりは兄貴のチームの面子が中心の打ち上げで…。”
 女子の人も結構混ざってはいたけれど、ツンの実家の居酒屋から出て、ウチへと場を移した時は、殆どがカラオケに流れてったからあんまり残ってはなかったよな。メグとそれから、大学部のマネージャーさんとチアの女子の何人か。そんな中の誰かと、俺、話とかしたっけか? チビがぎゅうぎゅうくっついてやがって、トイレはあっち、台所はそっちなんて、俺より先に応対してたしなぁ。


  ……………そのチビに知れたら、大問題じゃねぇのか? これ。


 うわあっと息を引いたのと同時、ぶるるっと寒気がしたものの、
“…じゃあなくて。”
 このお嬢さんの気持ちの方が先だろ、自分。まだ寝ぼけているのかなぁと呆然としつつ、枕に頭を落ち着け直し、天井を見上げると、手元の温もり、助けを求めるように抱き寄せかかり、
“…って、だからっ。”
 そんなしてどうするよと、あつものにでも触れたかのように手を放し、バンザイしながらわたわたと焦る。気のせいか、痴漢行為なんてしてませんという構図に似ている。この場合の正しい対応は、

  @ まず、そぉっとベッドから出る

 じゃあなかろうか。遅ればせながらも、そこへと思いが至ったルイ坊っちゃん、そぉっとそぉっと、相手を起こさぬようにと体をズラし始めた。幸いにも壁にくっつけてという設置をしていなかったので躊躇なく出来たことではあったのだが(こんのお屋敷住まいの金持ちめ・笑)、
「…っ。」
 そんな若造の逃げ腰な魂胆をせせら笑うように、お約束の難儀が襲い掛かってきたから堪らない。相手だって、ぬくぬくと熟睡していたのだ。しかも、ちょこっとだけ、呼びかけへお返事返せるまでには起きかけてもいたのだ。よって、温かな“抱き枕”が逃げ始めたのを、断りなく勝手をするかと思ってのことか、はたまたベッドから落っこちかけてると解釈してしまったものか。待て待てと追うように手が伸びて来て、パジャマ代わりのトレーナーの胸倉を、ぎゅうと掴まれたもんだから、

  “きゃあぁっ!”

 いやそうまで可愛らしい悲鳴を上げんでも、お兄さん。
(笑) あああ、あいつに負けないくらい、白くてかわいい手じゃねぇか。まだ眠いんか? ヌクヌクだぞ? いや・そうじゃない。勘弁してくださいって、俺、何んにもしてませんから。酔っ払った覚えはないけど何んにも覚えてなくてですね。いえ、責任逃れなんてするつもりはないですが、けどでも・えっと。こういうときは笑顔の方が良いのかな。でもなんか、へらへらしてるのは誠意がないってことになんないか? かといって、真面目な顔なんて出来ねぇよ。引きつっちまってて怖い顔んなってるに違いなくて。

  「…朝っぱらから怖い顔して、どした?」

 悪かったな怖い顔で、生まれつきだよ。……………………………へ?


  「………おはよ、ヨウイチ。」
  「おう。」


 くぁあぁ〜〜〜っと、大きな欠伸をしつつ、まだ眠いぞ〜っとばかり。後ろ手に手をついての起き上がりかけだった葉柱のお兄さんの腹あたりへと、ぽすんと落ち着き直しつつ、うにゃむにゃと頬擦りなんかしている仔猫は、間違いなく…葉柱がよくよく知ってる蛭魔さんチの妖一坊っちゃんであり。(お久し振りだねぇvv・苦笑) 懐ろに見下ろしていた金髪のみならず、細い肩も小さな背中も、紛れもなく見慣れたそれであり。でもけど、それじゃあ、
「………。」
 視線を掛け布団の足元のほうへと、みたび向けてみた葉柱の目には、やはり…誰ぞの脚が伸びてるシルエットが、
“見えてるんですけどっ。”
 どういう冬の怪談だよ、これ。間近にいる方の坊やの二度寝っぷりを複雑そうに見やりつつ、う〜〜〜っと唸った葉柱の内的大恐慌になど気づいてもない、問題の小悪魔坊やの方はというと、
「ん〜〜〜。」
 しばらくもそもそ、寝相を決めようとのゴソゴソをしていたものの、
「邪魔。」
 ぽいっと。何かを後ろへと蹴り出した模様。それと同時に、葉柱が睨ねつけていた不気味な畝もまた、ぐいんと大きく外へとずれたもんだから……………あれれぇ? これってもしかして。


  「……………ヨウイチ。」
  「ん〜? なに〜?」
  「昨夜、寝る時に、何か持ち込んでやがったか?」
  「ん〜とね、サラミとパプリカのスティックピザ。」
  「喰いもんをベッドに上げるなと何遍言ったら…じゃあなくてだな。」
  「それと、カニ原モモコの等身大抱きまくら。」
  「カニ?」
  「Hカップのグラビアアイドル。
   胸と尻に使い捨てカイロ入れられるってのを懸賞で当てたんだ。」
  「…………。」


 それだったみたいですよ、お兄さん。がぁっくりと肩を落としたそのまま、これも落とした視線の先にあったのが、坊やの金の髪の間から覗いてた、ちょっぴり先の尖った白いお耳で。余程のこと、捻り上げてやろうかと思ったものの、それじゃあ大人げないってもんだと、思い直して………溜息一つ。


  ――― お前、ガッコはいいのか?
       インフルで学級閉鎖中だも〜ん。
       こないだもそんなこと言ってなかったか?
       じゃあ、んと…ノロウィルス。
       じゃあってのは何だ、じゃあってのはよ。


 罹ってる人は大変なんだぞ? 不謹慎だろうがよ。うん、それは謝る、ごめんなさい………zzzzzzzz。だから、そのまま寝ない。う〜〜〜。ほれ、起きた起きた…と、なかなかに賑やかな朝の光景が、いつも通りに始まった模様で。お兄さんのほうは政治家になるとして、弟さんのほうはもしかすると、保育士の道を選ぶかも。しかもそれで大成するかもなんて下馬評が、実(まこと)しやかにお屋敷の皆様の間で取り沙汰されてるなんて事、ご本人が知るのはあと数年後のことだそうですが。確かに…こんな情景を頻繁に見聞きさせられていては仕方がないかも知れません。
(笑)





  〜どさくさ どっとはらいvv〜 06.12.18.


  *ちょっぴりご無沙汰しておりましたが、
   こちらさんでも相変わらずの一日が始まる模様でございます。
   お忙しい師走の、お寒い中ではございますが、
   皆様もどうかお元気でお過ごしのほどを………。

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